เข้าสู่ระบบ衛兵の隊長と思わしき男性が、集まった皆に号令をかける。
「これから魔物調査に向かう!対象の魔物は数も種類も不明だが、
岩山を消し飛ばしたという報告が入っていることから二段階目までの強さは覚悟しておくように! またここからそう遠くない場所になる。最初から気を引き締めるように!」街の大門がゼンマイ仕掛けでガチャガチャと音を立てながら開いてゆく。
いざ行進を開始するというタイミングで背後から声がかけられた。「貴方も調査に参加するのね」
「明日に差し支えると困るからね。そういう君は?」
「大体は貴方と同じ。店主さんにも頼まれたし」
二人の会話を遮るように号令がかかる。
「調査開始!」
気合をつけた隊長が先陣を切って進んでゆく。
彼の位置は隊の後方、彼女はやや前方に配置されている。
目的の場所にはすぐに到着した。
岩山が消し飛ばされたとされる場所は、確かに魔力濃度が異常に高い。元来魔物がポップする仕組みは、周囲の魔力が形を成したもので、
強さは六段階で分類される。出発前に隊長が説明していた二段階目までの魔物なら、
集まった人数だけでも対処が可能だろう。彼が出るとしたらそれよりも上の段階の、不測の事態が発生した時だけだ。
彼は様子だけ見には来たが、動くつもりは全くなかった。
(一・二段階目ならあの金髪の彼女だけでも十分に倒せるはず)
しかし、彼の期待は大きく外れることになる。
出現したのは四段階目のユニコーン。
パワーはそこまでないが、高い知能と俊敏性、魔法も使用してくるという報告書もある。
大型パーティになればなるほど、ユニコーンのサイズの小ささを考えると苦戦が強いられる。
力量的には五段階目と互角に渡り合える手練れが数人で討伐する魔物なのだ。主な生息地は、魔力溢れる人間が近づかない緑豊かな “深域”や、
ダンジョン奥地のトラップに引っかかったときに出現するような魔物のはずだ。こんな魔力濃度が本来薄いはずの岩山地帯にポップするはずはない。
岩陰に隠れてユニコーンの様子を伺う。
暴れまわるタイプではないが、こちらが刺激を与えればその限りではない。
衛兵の副官と思わしき人物が、隊長に耳打ちする。
「相手はユニコーンです。我々だけでは対処ができません」
「うむ、それはわかっているが、ここで撤退して住人や行商人に被害が出てからでは遅い」
考え込む隊長だが、具体的な作戦が出てこないだろうと判断した金髪の彼女は
一度持ち場を離れることを隊長に告げ、後方に足を運んだ。「というわけで、貴方に手伝ってほしいの」
少し間をおいて
「わかった、協力しよう」
彼が承諾すると金髪の彼女が目をぱちくりする。
「え、協力してくれるの?」
「君がお願いしたんだろ」
「絶対断られると思った──。なら早速作戦を立てましょう」
「少し声の大きさを落とせ。奴は耳もいい」
ちらっと金髪の彼女がユニコーンを確認したが、
こちらにはまだ気づいていない様子。ハンドサインで少し遠くに移動し、二人だけの場所へ移動する。
「あのユニコーン、ちょっとおかしいと思わないか?」
「おかしいって、何が?」
「ユニコーンが確認されてから、周囲の魔力が全く減ってない」
「言われてみれば、こんな元々魔力が薄い環境で周囲に散っていかないのはおかしいわ」
無言で彼が頷く。
「俺は魔力をこの場所一帯に固定する魔術がかけられていると考えている」
「なんのために?」
「それは俺にもわからんが、奴がポップしているにも関わらず、
魔力反応はいまだ顕在。可能性は薄いが、もう一体ユニコーンがポップしても不思議はない」金髪の彼女の表情に緊張が走る。
「もう一体ポップしたら間違いなく死人が出るわ」
「そうだ、いくら俺や君が強かったとしても、この人数を守りながらの戦闘は不可能だ。
だからもう一体が出てくる前に、この結界空間を破壊する必要がある」「簡単に破壊するなんて言うけど、方法はあるの?」
「ある」
自信に満ちた表情をする彼を見てすぐに納得する。
「そう、なら信じる。結界については任せるわ。
私は隊長にユニコーンを刺激しないように進言してくる」「頼んだ」
「そういえば、この結界を──」
結界を作った魔術師はどうするのか聞こうと振り返った時には、彼の姿はもうなかった。
(また消えた…)
周囲を見渡すが彼の姿はどこにもない。
今は探しても仕方がない。切り替えて金髪の彼女は隊長の元へと駆け足で向かい、 事情を説明するべく動き出した。高度三百メートル付近、彼は空中にいた。
地上の様子がよくわかる限界の高度まで上昇した彼は考えていた。
あの時彼女と話していないことが一つ。 そもそもユニコーンが自然にポップすること事態ありえないレベルの確率なのだ。もう一体ユニコーンがポップする可能性について彼女は疑問を持たなかったが、
一体ポップしている以上、結界以外にもユニコーンが“人為的にポップさせられている” 可能性も考慮する必要がある。考えを整理しながら見渡していると、新しく大きな魔力を感じる。
ここから更に岩山の向こう側に、二体目のユニコーンがポップしていた。「ついてるな」
ユニコーンがポップした地面に、何やら魔法陣が敷かれていたのが分かった。
おそらくユニコーンを召喚するための陣だと推測できる。彼は表情を少し緩めたが、すぐに表情を引き締める。
まずは二体目のユニコーンを討伐しなければ、下にある魔法陣の破壊は困難だろう。
衛兵たちは一体目のユニコーンとの睨み合いが続いているが、
二体目まで現れては間違いなくパニックを引き起こすだろう。もしそうなれば金髪の彼女が言っていた通り間違いなく死人が出る。
結界の大元はまだ発見できておらず、今ここで魔法や魔術を行使すれば、
更に魔力濃度の上昇を引き起こしかねない。ここは剣で奴を断頭し、確実に仕留める必要がある。
彼は空中で帯同させていた剣に命令を出す。「回れ」
命じられた剣はゆっくりと回転数を上げていき、
すぐに剣の形が分からないほどの回転を見せる。これ以上回転数を上げて「音」を出せば下にいるユニコーンや彼女たちに気づかれてしまうため、
ユニコーンを仕留められる回転数を計算して維持する。新たにポップしたユニコーンの注意を逸らすために、
魔力糸を石ころまで伸ばしユニコーン近くの岩めがけて突進させる。岩に石ころが激突し、音が響く。
驚いたユニコーンは音の発生源に注意が向き、首の位置が後ろになったところで背後から必殺の回転刃が
いとも容易くユニコーンの首が胴から分かたれ、魔石の姿へ還っていった。三体目が出現する前に、魔法陣を破壊するべく付近に降り立つ。
魔力糸を魔法陣に接続すると、彼の魔力が凄まじい速度で吸収される感覚があった。
どうやらこの魔法陣に描かれている文字を読むと周囲の魔力を吸収する効果
魔力を閉じ込める結界の効果 吸い上げた魔力を糧にユニコーンを召喚する効果の三つが組み込んであるようだ。
円形に構成されている魔法陣は内側から難易度別に大きさを変えており、
内側と外側の命令式との間に術式同士が相互干渉しないよう、
命令式ではなく象形文字に近い形状の模様がいくつも連結されている。魔法陣を描いている材料は、魔石を液体化させた塗料のようなものだ。
高価ではあるが、大きめの魔術学校に行けば目にすることは難しくないだろう。魔法陣を作成した者は相当魔術に精通している。
壊すのは簡単だが、 もう少し見ていたくなるような気持になるほど 美しく組まれた魔法陣を塗料ごと空中に引っ剥がし、 命令式を繋ぎ合わせている象形文字を強引に変更する。すると絶妙なバランスで効果を発揮していた魔法陣は自ら自壊を始め、
バラバラに崩れていく。ユニコーンの角と魔石を素早く回収してから、
最初に発見したユニコーンの元へ地上から戻る。「お待たせ。結界は破壊した」
「わっ!急に話しかけないでよ!びっくりしたじゃない!」
「わかった。悪かった。だから静かに」
「大体貴方はさっきも急に…!」
ここで自分が大きな声でまくし立てていたことに気づくが、
ユニコーンがこちらを凝視して甲高いうめき声をあげて突進してくる。「恨むぜ嬢ちゃん!」
「ごめんなさい!」
百キロ近い速度で突進してくるユニコーンを寸でのところで回避したが、
更に追撃をしてこようと頭のおでこ付近に生えている角に、全身から魔力を集中しスパークを始める。
魔力を電撃に変換する効率は他の魔法と比べて低い。
帯電しきるには時間がかかるはずだが、さすがは四段階目の魔物。五秒とかからず帯電を完了させ、こちらに狙いを絞る。
距離が離れていないこの状況では、
電撃の速度なら一瞬でこちらまで到着してしまうだろう。ユニコーンが電撃を放つ寸前、空から鉄製の剣が無数に落下してくる。
無造作に地面に突き刺さった鉄製の剣には目もくれず、 正確に狙いをつけた一撃が彼女達に襲い掛かる。しかし、ユニコーンが放った電撃は途中で鉄製の剣に軌道を変えた。
直撃すると身構えていた彼女達は、
電撃が未だに全身を焼くことがない事実に驚きの表情を浮かべ、思わず溢す。「電撃が曲がった!?」
彼女達とユニコーンは軌道を変えた電撃に驚きを隠しきれず、
少しの間狼狽していた。知能の高い魔物は脅威だが、
予測できない事態が起きると少しの間固まることも特徴だ。先ほどのように回転刃を使えば断頭する好機だったが、彼はそれを嫌った。
右足を地面に突き刺し、剣を右中段へと構える。
今度は魔力で全身を包み込み、ユニコーンへ突進。
瞬間的に速度を上げられた体が強烈な慣性で軋みを上げるが、
鍛え上げられた肉体はそれを可能にしていた。ユニコーン以上の突進速度で一瞬のうちに剣の間合いに入る。
勝負は一瞬。
急激な彼の突進に急いで距離を取ろうと一歩下がるがもう遅い。
ユニコーンが断頭されたことに気づくよりも速く中段から
横一閃に振りぬかれた剣は音速を超え、 振り切った剣が静止したに衝撃が周囲に走り、音を置き去りにした。一瞬の出来事に周囲からの歓声はなく、あるのは恐怖と驚きだけだった。
そんな中、目をキラキラと輝かせてこちらに走り寄ってくる影が一つ。
金髪の彼女だ。
「今の一撃は何?!音が遅れて聞こえたのだけど!
あと空から降ってきた剣も貴方の作戦よね! あれは電撃が軌道を変えることを知っていたってことよね!?ねっ!」早口で状況をまくし立てる彼女に周囲も個人差はあれど、
(やるな兄ちゃん!)
(恐れいったよ!)
と歓声が上がり始める。
あまりのテンションの上下にクラクラしそうになるが、
自分が子供の用にはしゃいでいることを自覚したのか恥ずかしがって頬を少し染め、顔を反らす。「まずは私の失態を何とかしてくれてありがとう。
礼を言うわ。私の名前は──」彼女が自己紹介を始めようとすると、そこで待ったをかける人物が現れる。
「おっと嬢ちゃん、それ以上はいけねぇ」
「えっ、先生、どうしてここに」
彼女の質問に答えることはなく、
大柄だが白髪交じりの無精ひげを生やし、 腰には日本刀を二本帯同している剣士と思われる老人が待ったをかける。「俺からも例を言わせてくれ。
ボウズが嬢ちゃんを助けてくれなきゃ、俺が出ることになっていた。それに」彼の耳元に寄って小さく囁く。
「─────────」
緩みかけた空気が一瞬で緊張感に包まれる。
上がっていた歓声はピタっとやみ、彼の近くにいた金髪の彼女も冷や汗を滲ませる。その緊張を破ったのは、やはり白髪の剣士だった。
「怖いねぇ。ま、このことは老い先短い墓までもっていくからよ」
「───────────────」
とまたも口パクで彼を煽り、金髪の彼女を連れて街へそそくさと引き返すのだった。
街に戻り、宿屋に戻る。
彼がユニコーンを討伐した噂がすでに広まりつつあるようで、
情報の早い女店主に何やら褒められた気がするが、 頭の中はあの白髪の剣士でいっぱいだった。適当に風呂と食事を済ませ、水に魔力糸を接続して空中に浮かせ、変形を始める。
この作業はいい。頭の中が整理されていくのを感じる。声をかけるまで気取られない体裁き。
話している最中でもぶれない姿勢。あの時、仮に切りかかっても初撃は防がれていただろう。
明日の大会に奴が出場しているのなら、遅かれ早かれ対戦することは間違いない。
勝つことを考えると、いくつか観客の前で技術を披露する必要が出てくる。だがそこまでする必要があるのだろうか?
今回のユニコーンの討伐報酬としてある程度の額は特別報酬として
冒険者ギルドを通して受け取っている。 当初の目的である日銭稼ぎは達成していると考えてよい。ならば、明日の大会は無理に自分の技術を見せびらかす必要はないのでは…
考えが棄権する方向に傾きつつあると、扉をノックする音がする。
金髪の彼女だろうか。だが、今彼女と話すつもりはなかった。大方ユニコーン討伐後に現れた白髪の剣士の無礼を詫びるとかそんなところだろう。
だが、扉の前にいたのは金髪の彼女ではなく、店主の娘だった。「お兄ちゃん、入ってもいい?」
「どうぞ」
「お邪魔します」
ベッドに座っていると隣に座ってもいいか目線で訴えかけてくる。
手招きすると少女の表情は明るくなり、少し勢いをつけてベッドに座ってくる。「お兄ちゃんが危ない魔物を倒したってホント?」
「ああ、本当だよ」
「すごーい!ねぇねぇ、その冒険の話をもっと聞かせて?」
冒険。冒険か、懐かしい響きだ。
幼い頃、自分も英雄を夢見て冒険と評した探検をよくしたものだ。すると彼の顔を覗き込んだ少女がふふっと笑った。
「お兄ちゃん、やっと笑ったね!すごいことをしたのに、
帰ってきてからずっと怖い顔していたから」「ごめんな。ありがとう」
心配そうな顔をする少女の頭を軽く撫でる。
「お兄ちゃん、くすぐったいよ」
まだ幼い子にまで心配をかけて、自分もまだまだ精神的に幼いことを自覚する。
それから女店主に怒られるまで、今日あったことをわかりやすく少女に話すのだった。
別れ際に、少女から「明日の大会、絶対見に行くから!頑張ってね!」
「かっこいいところを見せられるように頑張るよ」
ここでセレスティアの主要貴族の一人であるドットハム卿が発言を求める。「恐れながら申し上げます。王国民の体調は悪くなる一方、ここは大規模調査団を川の上流に派遣し、原因を一刻も早く除去するべきです」だが、ここで違を唱えたのはそのセレスティア本人だった。「お待ちになって下さい。ドットハム卿。このセレスティア、貴殿のお気持ちは痛いほど理解できます。しかしながら今、国が弱っている中で騎士団の大部分がここを空けてしまった場合、王国民は誰が護るのでしょうか?」「しかしそれではどうしろと…」セレスティアが女王であるダクストベリクに向きを変え、力強く意見する。「女王陛下、ここは少数精鋭で原因を除去し、王国の守護は騎士団に任せるべきだと進言致します」女王が目を閉じて考える。数秒の間、謁見の間が静まり返り、再び女王が口を開く。「セレスティア、貴女が現地に行くと言うのですね?」「はい、ここにいる騎士レルゲンと共に」ざわざわと貴族が話し込み始める。「静粛に。貴女は王位継承権第一位です。このまま行けば貴女が次期女王となるでしょう。危険を犯してまで出向く必要は本当にありますか?」ここで普段優しく、そしてよく笑う表情が多いセレスティアの表情が引き締まり、女王を強い意思の瞳で見つめる「王国民なくして国は成り立ちません。空っぽの玉座に座れたとて、本当に王国と呼べるでしょうか?私はそうは思いません。今こそ位の高い者が自らの手で救いの手を差し伸べなくてはならないのだと、私は強く思うのです」「……分かりました。貴女のその強い意思に王国民の明日を託しましょう」女王が一度窓の外をどこか遠い眼差しで見つめてから、今度はレルゲンを見る。「騎士レルゲン、貴方にもこの疫病とも呼ぶべき負の連鎖を断ち切ることを命じます。よろしいですね?」「お言葉ですが女王陛下、私はここにおりますマリー王女殿下の専属騎士にございます。このように皆様からの厚いご支援賜り今日まで努めさせて頂いておりますがマリー様のご意思無くして、マリー様のお側を離れることは出来ません。ご容赦を」「マリー、貴女はどう思われますか?」「私の側を離れての極秘任務、騎士レルゲンにお命じ下さい。私はもう、護られるだけの姫ではございません。一刻も早くこの自体を解決できるのはこのレルゲ
こんな具合で王立図書館での本選びに飽きた時に、カノンの研究所に足を運び、研究を手伝っていた。カノン自体の魔力量や適正はいいとこC止まりで、潤沢に研究に使う魔力が無いのでレルゲンの魔力タンクには助かっているそうだ。(これは、俺が切り取った魔族の魔石か?)「おや、気づいたかい?調べてみるとその魔族から奪った魔石は君が前に倒した五段階目のアシュラ・ハガマの尻尾についている鉱石と構造が似ていてね。実際に魔力を込めたら光り輝く事から、少量の魔力で結構な魔力運用が見込めるのがわかったよ。あっ、そこまででストップね」魔力を込めるのを止めて、カノンに返す。ペンを雑紙に走らせながら結果を記入していく。前に見せてもらった事はあるが、セレスティアの講義よりもサッパリな内容だった。いつもはもう少しスッキリした作業机だが、今日は何やら書類が山積みだ。「今日は忙しそうだな」「あー、この山積み書類のことかい?良ければ内容確認を手伝っておくれよ。大体が体調不良を訴える国民の意見書だよ」「いいけど、意見書がどうしてここに来るんだ?」「なんでも、体調不良になっている原因を探って欲しいんだと。私は何でも屋じゃ無いんだぞー」椅子にもたれかかって不満を口にするカノン。試しに何枚か読んでみると、腹痛・嘔吐・下痢・果ては関節の痛みまで多岐に渡る。確かにこれは街の医者に頼んだ方がいい案件な気がするが……と思っていた時に一つ気になる症状があった。これは症状と言っていいのか分からないが、魔力量が急激に伸びて、性格が少し荒っぽくなった子供がいるとのこと。これは医者ではなく研究所で調べる必要があるのかもしれない。そう感じたレルゲンがカノンに件の書類を渡す。「これはうちの案件かもねぇ」なんともやる気の出ないカノンの声は本当に面倒くさそうだ。「まぁ、俺もやれる事はやるから」「頼り切って悪いねぇ、ほんと助かっているよ。うちの研究員にこの症状が出ている親御さんへ話を聞きに行かせるから、結果次第で助手君にも作業を割り振るよ」カノンから再びお呼びがかかって研究室に行くと、更に机のみならず通路にまで書類の山が積み重なっている。カノンの目には一時期改善したと思っていたクマが色濃く浮き出ている。「カノン、また寝てないのか?」「やぁ、レルゲン助手…よく
笑っているとセレスティアが歩いてくる。その表情はどこか羨ましそうだ。「楽しそうですね。何かありましたか?」「ああ、セレス様、マリーは俺のところでは卒業です。後は自主的な修行に変えようかと」「随分と早いですね。そういえば、マリーがレルゲンと発注しに行った首飾り、完成したようなので届いていましたよ。そして……」と続けたセレスティアは、今日の講義は課外授業にしたようだ。レルゲンが心の中で握り拳を作る。修練場に案内されたレルゲンとマリーは口を大きく開けて驚いていた。本来なら木製の床が敷き詰められ、雨除けの屋根がある程度の簡素な場所だったが今日は違う。自分の背丈の五倍はあろう巨大な水晶玉に、測定する人の魔術系統がわかる特殊な白い紙が用意されている。魔術系統は全部で七つに分類される。火、水、風、雷、光、影、無無属性魔術は言ってしまえばレルゲンがよく使っている念動魔術が含まれ、六種類で分類出来ない系統の総称とされる。驚かせたことに満足したのか、微笑みながらセレスティアが続ける。「今日はここで、最大魔力量と魔術適正、魔術系統を再確認します。まず始めは最大魔力量と魔術適正になります。この水晶に手を当て魔力を注いで下さい。こんな感じで」セレスティアが意識を集中し、全身から魔力が溢れ出る。ゆらゆらと陽炎の様に周囲の空間が歪んで見えるほど、魔力濃度が高いことが分かる。セレスティアの結果は最大魔力量A、魔術適正S。魔術師としての素質はほぼ頂点と言っていいだろう。続いてマリーは最大魔力量B、魔術適正A。修行前の最大魔力量はCだったというから、大きな進歩だ。これにはセレスティアも驚いており、レルゲンに方法を教えて貰おうと必死になったのはまた別のお話。続いてレルゲンが水晶に手を触れ、アシュラ・ハガマと戦った時の事を思い出す。あの時の全魔力解放は……こうだ。ドスンと空気が一気に重くなり、水晶の管理でついてきていたギルドの女性が重さに耐えかねて座り込む。レルゲンの全身から真っ赤な魔力が、アシュラ・ハガマの時よりも濃い赤色となって溢れ出る。マリーは一度側でレルゲンの魔力解放を身に受けているためそこまでの驚きは無かったが、セレスティアはというと額から冷や汗がこぼれ落ちるほどの圧力を感じ取っていた。ピシッと水晶にヒビが入っ
次の日、早速マリーの強化訓練が開始される。いきなり実演に入る前にざっくり訓練の内容を説明する。マリーの持っている剣は王国の宝剣と呼ばれる代物の一つで、魔剣に分類されている。この魔剣の効力は簡単に言うと使い手の速度上昇と魔力強化だ。一見地味な効果だと思いがちだが、マリーの場合は別だ。マリーには「連続剣の加護」がある。連続剣の加護と速度上昇の効果は相性がいい。加えてマリーの膂力の高さも相まって、連続剣の加護が発動し続けると、理論上はどんな攻撃よりも速く、そして強く繰り出せるようになる。「マリーは連続剣の加護を持っているよな」「ええ」「でも試合で戦っていた時は発動が切れた。なぜだと思う?」「あの時は正直に言うと押し返された時に負けを覚悟したわ」「そうだな、マリーの心が先に折れていた。俺も正直に言うが、あの戦いは実際賭けだった。あのままマリーの加護が発動し続けたら俺は負けていたかもしれない」「そうなの?」レルゲンが力強く頷く。加えて更に伸び代がある事を伝える。「それにマリー、あの時は剣に魔力を大して付与していなかっただろう?」「そうね、剣術だけに頼っていたわ」「その魔剣は魔力強化もされると聞いた。折角魔術適正がAなんだ。もっと剣に魔力を込めて戦えるんじゃないのか?」「無理よ」ん?と首を傾げるレルゲン。ここで躓くとは思っていなかったようだ。「私、魔術適正は高いけど、魔力量はそこまで多くないのよ。だからあの時だって、剣に魔力自体は流していたわ」「なるほどな」ここまで聞ければ十分と言いたげに、レルゲンがマリーの強化方法を告げる。「よし、マリーの修行は魔力の効率的な運用じゃなくて、魔力の絶対量の上昇だな」「簡単に言うけど、どうやるの?」「簡単さ、マリーには何回もマインドダウン状態になってもらう」マリーの顔が青ざめる。マインドダウンは本来避けるべき症状だが、恩恵もある。それはマインドダウン状態になって体内の残存魔力がゼロになった時に発生する“器の破壊”だ。身体が怪我をした時により強い組織へと修復するのと同じで、一度魔力がゼロになると、より多くの魔力を蓄えられるようになる。幸いこの土地には地脈も通っている。器の修復自体は直ぐにできるだろう。後はマリーがマインドダウンの症状に耐えられるか次第だ。「ど
緩み切った空気になることを待っていたのだろう。草陰から音もなく暗器が投げ込まれる。こんな人混み中で強行してくるとは、流石のレルゲンも一瞬出遅れる。投擲物が来たとわかってから、自分とマリーに念動魔術をかける。“矢避けの念動魔術”自身に害があると認識した投擲物の軌道を自動的に曲げる事ができる魔術で、レルゲンが旧王朝出身でありながら今まで生きてこられたのも、この魔術を早期に会得したことが大きいと言える。最初に使ったのは暗殺ギルドの長との戦いで、同じく投擲物の軌道を曲げるために使い、それを加護によるものだと誤認させた。マリーがもっている“連続剣の加護”も同様に、加護には弱点が存在する。連続剣の加護は自身の闘志が無くなると効果が消える。“矢避けの加護”の弱点は攻撃されたと認識しなければ発動しない。付与される加護の希少性では矢避けの加護は下位に位置し、その弱点もある程度知られている。つまり、レルゲンの緊張が緩み切った瞬間を狙って、マリーから中々離れないレルゲン共々暗殺しに来たというわけだ。矢避けの念動魔術によって暗器が逸れたと同時に集中を深くし、周囲の魔力反応を探る。人型・強い魔力。人間とは自然魔力の流れ、大きさが異なっていた。(この感覚、忘れもしない。魔族だな)魔族は最低でも三段階目、多くが四・五段階目に分類される種族だ。(いよいよマリーを狙う敵側もなりふり構っていられなくなってきたか)通常、魔物は消滅時に魔石を生成するが、魔族は別で最初から魔石を体内に有している。身体の一部となる事で魔力の運用効率が爆発的に向上し、高い戦闘能力を有している事が多い。ここまで入念に準備して、かつこちらはマリーも帯剣していない。今自分が持っているのはお守りで持ってきた鉄の剣と黒龍の剣。黒龍の剣なら相手することはできるが、鉄の剣では螺旋剣にした所で倒せる魔族は一体のみだろう。狙撃に近い遠方からの攻撃手段があるかもしれない。ここまで後手に回ってしまうと分が悪い。念動魔術で空を駆ける。「逃げるぞマリー!」「戦わないの?」「こいつを使えば戦えるだろうが、いきなりの実戦が魔族相手は分が悪い、一旦体制を立て直す」全速力で王宮を目指す。魔族側も羽を展開して追いかけてくるがレルゲンの方が速い。王宮まであと少しという所で、
常に気を張っていては身体ではなく心が疲弊する。そこで兼ねてより約束していた鍛治屋、もとい街のぶらり旅をレルゲンが提案したのだった。「いいわね!私も振り回されてちょっと気分転換が必要だと思っていたのよ。今からだと陽がすぐ落ちちゃうだろうし、明日行きましょう!」「分かった」マリーが予想していたよりかなり乗り気な反応をする。余程ストレスが溜まっていたようだ。次の日、軽く朝食を済ませて、出かける準備をする。もしもの時の為に剣を一本背負い込み、待ち合わせに指定された噴水のある広場に足を運ぶ。マリーを驚かす品物を鞄に詰め込む事も忘れなかった。約束の時間までまだ余裕があった筈だが、感知し慣れた魔力反応が既にある。「お待たせ、マリー」「ううん、私もさっき来たところ」白いワンピースに茶系の帽子、目には最近流行っていると噂されている日避け用の眼鏡をかけ、白いサンダルを身につけている。結ばれている金色の髪は真っ直ぐに下され、普段とは全く装いが違った。思いがけず見惚れてしまい、一瞬言葉に詰まってしまったが、すぐに彼女の容姿について似合っている旨を伝える。「とても似合っている、綺麗だよ」「そう?時間をかけた甲斐があったわ。でも貴方、それいつもと同じ旅の格好どうにかならなかったの?」「すまない、街にふさわしい服を持っていなくてな。流石に騎士服を着るわけにはいかず…」これには本当に申し訳ない気持ちになる。こうなるなら、セレスティアに相談しに行けば良かったかも知れない。「まぁ、いいわ。それなら貴方の服装を私が見繕ってあげましょう!」「それはありがたい」「で、その大荷物はまた何?」突っ込み所が多すぎて頭が痛いと言わんばかりに額を抑えるマリー。ここで挽回しなければと思い、鞄の中から念動魔術で、驚かす為の品を出す。「それって」「そうだ、アシュラ・ハガマの尻尾にある増幅器代わりになっていた鉱石と、ユニコーン二種の角と魔石だ」「なるほどね、それらを持ち込んで唯一無二の装備を作ろうって訳か」「そうだ、アシュラ・ハガマは武器として、ユニコーンは魔石を使って武器の核にしようと思う。残るはユニコーンの角二本と魔石一つだが、これはマリー。君の防具か武器、もしくは装飾品を作って貰う予定だ」思いの外喜ぶという感じではなく、冷静に