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3話 大会前日 魔物出現騒ぎ

last update 公開日: 2025-11-27 21:30:55

衛兵の隊長と思わしき男性が、集まった皆に号令をかける。

「これから魔物調査に向かう!対象の魔物は数も種類も不明だが、

岩山を消し飛ばしたという報告が入っていることから二段階目までの強さは覚悟しておくように!

またここからそう遠くない場所になる。最初から気を引き締めるように!」

街の大門がゼンマイ仕掛けでガチャガチャと音を立てながら開いてゆく。

いざ行進を開始するというタイミングで背後から声がかけられた。

「貴方も調査に参加するのね」

「明日に差し支えると困るからね。そういう君は?」

「大体は貴方と同じ。店主さんにも頼まれたし」

二人の会話を遮るように号令がかかる。

「調査開始!」

気合をつけた隊長が先陣を切って進んでゆく。

彼の位置は隊の後方、彼女はやや前方に配置されている。

目的の場所にはすぐに到着した。

岩山が消し飛ばされたとされる場所は、確かに魔力濃度が異常に高い。

元来魔物がポップする仕組みは、周囲の魔力が形を成したもので、

強さは六段階で分類される。

出発前に隊長が説明していた二段階目までの魔物なら、

集まった人数だけでも対処が可能だろう。

彼が出るとしたらそれよりも上の段階の、不測の事態が発生した時だけだ。

彼は様子だけ見には来たが、動くつもりは全くなかった。

(一・二段階目ならあの金髪の彼女だけでも十分に倒せるはず)

しかし、彼の期待は大きく外れることになる。

出現したのは四段階目のユニコーン。

パワーはそこまでないが、高い知能と俊敏性、魔法も使用してくるという報告書もある。

大型パーティになればなるほど、ユニコーンのサイズの小ささを考えると苦戦が強いられる。

力量的には五段階目と互角に渡り合える手練れが数人で討伐する魔物なのだ。

主な生息地は、魔力溢れる人間が近づかない緑豊かな “深域”や、

ダンジョン奥地のトラップに引っかかったときに出現するような魔物のはずだ。

こんな魔力濃度が本来薄いはずの岩山地帯にポップするはずはない。

岩陰に隠れてユニコーンの様子を伺う。

暴れまわるタイプではないが、こちらが刺激を与えればその限りではない。

衛兵の副官と思わしき人物が、隊長に耳打ちする。

「相手はユニコーンです。我々だけでは対処ができません」

「うむ、それはわかっているが、ここで撤退して住人や行商人に被害が出てからでは遅い」

考え込む隊長だが、具体的な作戦が出てこないだろうと判断した金髪の彼女は

一度持ち場を離れることを隊長に告げ、後方に足を運んだ。

「というわけで、貴方に手伝ってほしいの」

少し間をおいて

「わかった、協力しよう」

彼が承諾すると金髪の彼女が目をぱちくりする。

「え、協力してくれるの?」

「君がお願いしたんだろ」

「絶対断られると思った──。なら早速作戦を立てましょう」

「少し声の大きさを落とせ。奴は耳もいい」

ちらっと金髪の彼女がユニコーンを確認したが、

こちらにはまだ気づいていない様子。

ハンドサインで少し遠くに移動し、二人だけの場所へ移動する。

「あのユニコーン、ちょっとおかしいと思わないか?」

「おかしいって、何が?」

「ユニコーンが確認されてから、周囲の魔力が全く減ってない」

「言われてみれば、こんな元々魔力が薄い環境で周囲に散っていかないのはおかしいわ」

無言で彼が頷く。

「俺は魔力をこの場所一帯に固定する魔術がかけられていると考えている」

「なんのために?」

「それは俺にもわからんが、奴がポップしているにも関わらず、

魔力反応はいまだ顕在。可能性は薄いが、もう一体ユニコーンがポップしても不思議はない」

金髪の彼女の表情に緊張が走る。

「もう一体ポップしたら間違いなく死人が出るわ」

「そうだ、いくら俺や君が強かったとしても、この人数を守りながらの戦闘は不可能だ。

だからもう一体が出てくる前に、この結界空間を破壊する必要がある」

「簡単に破壊するなんて言うけど、方法はあるの?」

「ある」

自信に満ちた表情をする彼を見てすぐに納得する。

「そう、なら信じる。結界については任せるわ。

私は隊長にユニコーンを刺激しないように進言してくる」

「頼んだ」

「そういえば、この結界を──」

結界を作った魔術師はどうするのか聞こうと振り返った時には、彼の姿はもうなかった。

(また消えた…)

周囲を見渡すが彼の姿はどこにもない。

今は探しても仕方がない。切り替えて金髪の彼女は隊長の元へと駆け足で向かい、

事情を説明するべく動き出した。

高度三百メートル付近、彼は空中にいた。

地上の様子がよくわかる限界の高度まで上昇した彼は考えていた。

あの時彼女と話していないことが一つ。

そもそもユニコーンが自然にポップすること事態ありえないレベルの確率なのだ。

もう一体ユニコーンがポップする可能性について彼女は疑問を持たなかったが、

一体ポップしている以上、結界以外にもユニコーンが“人為的にポップさせられている”

可能性も考慮する必要がある。

考えを整理しながら見渡していると、新しく大きな魔力を感じる。

ここから更に岩山の向こう側に、二体目のユニコーンがポップしていた。

「ついてるな」

ユニコーンがポップした地面に、何やら魔法陣が敷かれていたのが分かった。

おそらくユニコーンを召喚するための陣だと推測できる。

彼は表情を少し緩めたが、すぐに表情を引き締める。

まずは二体目のユニコーンを討伐しなければ、下にある魔法陣の破壊は困難だろう。

衛兵たちは一体目のユニコーンとの睨み合いが続いているが、

二体目まで現れては間違いなくパニックを引き起こすだろう。

もしそうなれば金髪の彼女が言っていた通り間違いなく死人が出る。

結界の大元はまだ発見できておらず、今ここで魔法や魔術を行使すれば、

更に魔力濃度の上昇を引き起こしかねない。

ここは剣で奴を断頭し、確実に仕留める必要がある。

彼は空中で帯同させていた剣に命令を出す。

「回れ」

命じられた剣はゆっくりと回転数を上げていき、

すぐに剣の形が分からないほどの回転を見せる。

これ以上回転数を上げて「音」を出せば下にいるユニコーンや彼女たちに気づかれてしまうため、

ユニコーンを仕留められる回転数を計算して維持する。

新たにポップしたユニコーンの注意を逸らすために、

魔力糸を石ころまで伸ばしユニコーン近くの岩めがけて突進させる。

岩に石ころが激突し、音が響く。

驚いたユニコーンは音の発生源に注意が向き、

首の位置が後ろになったところで背後から必殺の回転刃が

いとも容易くユニコーンの首が胴から分かたれ、魔石の姿へ還っていった。

三体目が出現する前に、魔法陣を破壊するべく付近に降り立つ。

魔力糸を魔法陣に接続すると、彼の魔力が凄まじい速度で吸収される感覚があった。

どうやらこの魔法陣に描かれている文字を読むと

周囲の魔力を吸収する効果

魔力を閉じ込める結界の効果

吸い上げた魔力を糧にユニコーンを召喚する効果

の三つが組み込んであるようだ。

円形に構成されている魔法陣は内側から難易度別に大きさを変えており、

内側と外側の命令式との間に術式同士が相互干渉しないよう、

命令式ではなく象形文字に近い形状の模様がいくつも連結されている。

魔法陣を描いている材料は、魔石を液体化させた塗料のようなものだ。

高価ではあるが、大きめの魔術学校に行けば目にすることは難しくないだろう。

魔法陣を作成した者は相当魔術に精通している。

壊すのは簡単だが、

もう少し見ていたくなるような気持になるほど

美しく組まれた魔法陣を塗料ごと空中に引っ剥がし、

命令式を繋ぎ合わせている象形文字を強引に変更する。

すると絶妙なバランスで効果を発揮していた魔法陣は自ら自壊を始め、

バラバラに崩れていく。

ユニコーンの角と魔石を素早く回収してから、

最初に発見したユニコーンの元へ地上から戻る。

「お待たせ。結界は破壊した」

「わっ!急に話しかけないでよ!びっくりしたじゃない!」

「わかった。悪かった。だから静かに」

「大体貴方はさっきも急に…!」

ここで自分が大きな声でまくし立てていたことに気づくが、

ユニコーンがこちらを凝視して甲高いうめき声をあげて突進してくる。

「恨むぜ嬢ちゃん!」

「ごめんなさい!」

百キロ近い速度で突進してくるユニコーンを寸でのところで回避したが、

更に追撃をしてこようと頭のおでこ付近に生えている角に、

全身から魔力を集中しスパークを始める。

魔力を電撃に変換する効率は他の魔法と比べて低い。

帯電しきるには時間がかかるはずだが、さすがは四段階目の魔物。

五秒とかからず帯電を完了させ、こちらに狙いを絞る。

距離が離れていないこの状況では、

電撃の速度なら一瞬でこちらまで到着してしまうだろう。

ユニコーンが電撃を放つ寸前、空から鉄製の剣が無数に落下してくる。

無造作に地面に突き刺さった鉄製の剣には目もくれず、

正確に狙いをつけた一撃が彼女達に襲い掛かる。

しかし、ユニコーンが放った電撃は途中で鉄製の剣に軌道を変えた。

直撃すると身構えていた彼女達は、

電撃が未だに全身を焼くことがない事実に驚きの表情を浮かべ、思わず溢す。

「電撃が曲がった!?」

彼女達とユニコーンは軌道を変えた電撃に驚きを隠しきれず、

少しの間狼狽していた。

知能の高い魔物は脅威だが、

予測できない事態が起きると少しの間固まることも特徴だ。

先ほどのように回転刃を使えば断頭する好機だったが、彼はそれを嫌った。

右足を地面に突き刺し、剣を右中段へと構える。

今度は魔力で全身を包み込み、ユニコーンへ突進。

瞬間的に速度を上げられた体が強烈な慣性で軋みを上げるが、

鍛え上げられた肉体はそれを可能にしていた。

ユニコーン以上の突進速度で一瞬のうちに剣の間合いに入る。

勝負は一瞬。

急激な彼の突進に急いで距離を取ろうと一歩下がるがもう遅い。

ユニコーンが断頭されたことに気づくよりも速く中段から

横一閃に振りぬかれた剣は音速を超え、

振り切った剣が静止したに衝撃が周囲に走り、音を置き去りにした。

一瞬の出来事に周囲からの歓声はなく、あるのは恐怖と驚きだけだった。

そんな中、目をキラキラと輝かせてこちらに走り寄ってくる影が一つ。

金髪の彼女だ。

「今の一撃は何?!音が遅れて聞こえたのだけど!

あと空から降ってきた剣も貴方の作戦よね!

あれは電撃が軌道を変えることを知っていたってことよね!?ねっ!」

早口で状況をまくし立てる彼女に周囲も個人差はあれど、

(やるな兄ちゃん!)

(恐れいったよ!)

と歓声が上がり始める。

あまりのテンションの上下にクラクラしそうになるが、

自分が子供の用にはしゃいでいることを自覚したのか恥ずかしがって頬を少し染め、顔を反らす。

「まずは私の失態を何とかしてくれてありがとう。

礼を言うわ。私の名前は──」

彼女が自己紹介を始めようとすると、そこで待ったをかける人物が現れる。

「おっと嬢ちゃん、それ以上はいけねぇ」

「えっ、先生、どうしてここに」

彼女の質問に答えることはなく、

大柄だが白髪交じりの無精ひげを生やし、

腰には日本刀を二本帯同している剣士と思われる老人が待ったをかける。

「俺からも例を言わせてくれ。

ボウズが嬢ちゃんを助けてくれなきゃ、俺が出ることになっていた。それに」

彼の耳元に寄って小さく囁く。

「─────────」

緩みかけた空気が一瞬で緊張感に包まれる。

上がっていた歓声はピタっとやみ、彼の近くにいた金髪の彼女も冷や汗を滲ませる。

その緊張を破ったのは、やはり白髪の剣士だった。

「怖いねぇ。ま、このことは老い先短い墓までもっていくからよ」

「───────────────」

とまたも口パクで彼を煽り、金髪の彼女を連れて街へそそくさと引き返すのだった。

街に戻り、宿屋に戻る。

彼がユニコーンを討伐した噂がすでに広まりつつあるようで、

情報の早い女店主に何やら褒められた気がするが、

頭の中はあの白髪の剣士でいっぱいだった。

適当に風呂と食事を済ませ、水に魔力糸を接続して空中に浮かせ、変形を始める。

この作業はいい。頭の中が整理されていくのを感じる。

声をかけるまで気取られない体裁き。

話している最中でもぶれない姿勢。

あの時、仮に切りかかっても初撃は防がれていただろう。

明日の大会に奴が出場しているのなら、遅かれ早かれ対戦することは間違いない。

勝つことを考えると、いくつか観客の前で技術を披露する必要が出てくる。

だがそこまでする必要があるのだろうか?

今回のユニコーンの討伐報酬としてある程度の額は特別報酬として

冒険者ギルドを通して受け取っている。

当初の目的である日銭稼ぎは達成していると考えてよい。

ならば、明日の大会は無理に自分の技術を見せびらかす必要はないのでは…

考えが棄権する方向に傾きつつあると、扉をノックする音がする。

金髪の彼女だろうか。だが、今彼女と話すつもりはなかった。

大方ユニコーン討伐後に現れた白髪の剣士の無礼を詫びるとかそんなところだろう。

だが、扉の前にいたのは金髪の彼女ではなく、店主の娘だった。

「お兄ちゃん、入ってもいい?」

「どうぞ」

「お邪魔します」

ベッドに座っていると隣に座ってもいいか目線で訴えかけてくる。

手招きすると少女の表情は明るくなり、少し勢いをつけてベッドに座ってくる。

「お兄ちゃんが危ない魔物を倒したってホント?」

「ああ、本当だよ」

「すごーい!ねぇねぇ、その冒険の話をもっと聞かせて?」

冒険。冒険か、懐かしい響きだ。

幼い頃、自分も英雄を夢見て冒険と評した探検をよくしたものだ。

すると彼の顔を覗き込んだ少女がふふっと笑った。

「お兄ちゃん、やっと笑ったね!すごいことをしたのに、

帰ってきてからずっと怖い顔していたから」

「ごめんな。ありがとう」

心配そうな顔をする少女の頭を軽く撫でる。

「お兄ちゃん、くすぐったいよ」

まだ幼い子にまで心配をかけて、自分もまだまだ精神的に幼いことを自覚する。

それから女店主に怒られるまで、今日あったことをわかりやすく少女に話すのだった。

別れ際に、少女から

「明日の大会、絶対見に行くから!頑張ってね!」

「かっこいいところを見せられるように頑張るよ」

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  • 念動魔術の魔剣使い -大切な人を護り続けたら、いつの間にか世界を救う旅になりました-   5話 Bグループ決勝戦

    第一試合から順調に試合は進んでいき、彼は順調に駒を進め、決勝まで来たのだが相手は先日のユニコーン騒ぎでひと悶着あった白髪の剣士だ。「これよりBグループの決勝戦を開始します!えー、一番と八番の決勝戦ですが、なんとお互いに真剣を使っての試合を望んでいるようです!」決勝戦ともあればある程度のわがままは通るはず。どうやらお互いに考えていることは同じようだった。「ただいま入った情報ですが、事前にお互いが大会運営に直談判し、運営はこれを許可したそうです!さぁ盛り上がってまいりました!」観客から歓声が上がる。「では改めまして、Bグループ決勝戦!始めてください!」お互いに目線を合わせ

  • 念動魔術の魔剣使い -大切な人を護り続けたら、いつの間にか世界を救う旅になりました-   4話 魔術の基礎

    大会当日大会のルールは魔法、魔術あり、真剣あり。寸止めは必要なく戦闘続行不可能と審判が判断すれば試合終了。実質初撃で致命的な一撃を負わせることができれば殺しもありの、ほぼルール無用の地下闘技場にありがちな過激な大会規定だったはずだ。だが、急遽真剣は木剣となり、魔法、魔術も呪い系や再起不能になるレベルの攻撃魔法、魔術は禁止の実質学生の大会でもやるのかというレベルのルールでの開催となった。ここで魔法と魔術の違いについて簡単に説明しよう。魔法とは、単純な命令や魔力変換の末に行使が可能なもので、魔術とは、例えば魔法を複数組み込み複雑な術式を構築することを指すが、この魔法と魔術と

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