ログイン衛兵の隊長と思わしき男性が、集まった皆に号令をかける。
「これから魔物調査に向かう!対象の魔物は数も種類も不明だが、
岩山を消し飛ばしたという報告が入っていることから二段階目までの強さは覚悟しておくように! またここからそう遠くない場所になる。最初から気を引き締めるように!」街の大門がゼンマイ仕掛けでガチャガチャと音を立てながら開いてゆく。
いざ行進を開始するというタイミングで背後から声がかけられた。「貴方も調査に参加するのね」
「明日に差し支えると困るからね。そういう君は?」
「大体は貴方と同じ。店主さんにも頼まれたし」
二人の会話を遮るように号令がかかる。
「調査開始!」
気合をつけた隊長が先陣を切って進んでゆく。
彼の位置は隊の後方、彼女はやや前方に配置されている。
目的の場所にはすぐに到着した。
岩山が消し飛ばされたとされる場所は、確かに魔力濃度が異常に高い。元来魔物がポップする仕組みは、周囲の魔力が形を成したもので、
強さは六段階で分類される。出発前に隊長が説明していた二段階目までの魔物なら、
集まった人数だけでも対処が可能だろう。彼が出るとしたらそれよりも上の段階の、不測の事態が発生した時だけだ。
彼は様子だけ見には来たが、動くつもりは全くなかった。
(一・二段階目ならあの金髪の彼女だけでも十分に倒せるはず)
しかし、彼の期待は大きく外れることになる。
出現したのは四段階目のユニコーン。
パワーはそこまでないが、高い知能と俊敏性、魔法も使用してくるという報告書もある。
大型パーティになればなるほど、ユニコーンのサイズの小ささを考えると苦戦が強いられる。
力量的には五段階目と互角に渡り合える手練れが数人で討伐する魔物なのだ。主な生息地は、魔力溢れる人間が近づかない緑豊かな “深域”や、
ダンジョン奥地のトラップに引っかかったときに出現するような魔物のはずだ。こんな魔力濃度が本来薄いはずの岩山地帯にポップするはずはない。
岩陰に隠れてユニコーンの様子を伺う。
暴れまわるタイプではないが、こちらが刺激を与えればその限りではない。
衛兵の副官と思わしき人物が、隊長に耳打ちする。
「相手はユニコーンです。我々だけでは対処ができません」
「うむ、それはわかっているが、ここで撤退して住人や行商人に被害が出てからでは遅い」
考え込む隊長だが、具体的な作戦が出てこないだろうと判断した金髪の彼女は
一度持ち場を離れることを隊長に告げ、後方に足を運んだ。「というわけで、貴方に手伝ってほしいの」
少し間をおいて
「わかった、協力しよう」
彼が承諾すると金髪の彼女が目をぱちくりする。
「え、協力してくれるの?」
「君がお願いしたんだろ」
「絶対断られると思った──。なら早速作戦を立てましょう」
「少し声の大きさを落とせ。奴は耳もいい」
ちらっと金髪の彼女がユニコーンを確認したが、
こちらにはまだ気づいていない様子。ハンドサインで少し遠くに移動し、二人だけの場所へ移動する。
「あのユニコーン、ちょっとおかしいと思わないか?」
「おかしいって、何が?」
「ユニコーンが確認されてから、周囲の魔力が全く減ってない」
「言われてみれば、こんな元々魔力が薄い環境で周囲に散っていかないのはおかしいわ」
無言で彼が頷く。
「俺は魔力をこの場所一帯に固定する魔術がかけられていると考えている」
「なんのために?」
「それは俺にもわからんが、奴がポップしているにも関わらず、
魔力反応はいまだ顕在。可能性は薄いが、もう一体ユニコーンがポップしても不思議はない」金髪の彼女の表情に緊張が走る。
「もう一体ポップしたら間違いなく死人が出るわ」
「そうだ、いくら俺や君が強かったとしても、この人数を守りながらの戦闘は不可能だ。
だからもう一体が出てくる前に、この結界空間を破壊する必要がある」「簡単に破壊するなんて言うけど、方法はあるの?」
「ある」
自信に満ちた表情をする彼を見てすぐに納得する。
「そう、なら信じる。結界については任せるわ。
私は隊長にユニコーンを刺激しないように進言してくる」「頼んだ」
「そういえば、この結界を──」
結界を作った魔術師はどうするのか聞こうと振り返った時には、彼の姿はもうなかった。
(また消えた…)
周囲を見渡すが彼の姿はどこにもない。
今は探しても仕方がない。切り替えて金髪の彼女は隊長の元へと駆け足で向かい、 事情を説明するべく動き出した。高度三百メートル付近、彼は空中にいた。
地上の様子がよくわかる限界の高度まで上昇した彼は考えていた。
あの時彼女と話していないことが一つ。 そもそもユニコーンが自然にポップすること事態ありえないレベルの確率なのだ。もう一体ユニコーンがポップする可能性について彼女は疑問を持たなかったが、
一体ポップしている以上、結界以外にもユニコーンが“人為的にポップさせられている” 可能性も考慮する必要がある。考えを整理しながら見渡していると、新しく大きな魔力を感じる。
ここから更に岩山の向こう側に、二体目のユニコーンがポップしていた。「ついてるな」
ユニコーンがポップした地面に、何やら魔法陣が敷かれていたのが分かった。
おそらくユニコーンを召喚するための陣だと推測できる。彼は表情を少し緩めたが、すぐに表情を引き締める。
まずは二体目のユニコーンを討伐しなければ、下にある魔法陣の破壊は困難だろう。
衛兵たちは一体目のユニコーンとの睨み合いが続いているが、
二体目まで現れては間違いなくパニックを引き起こすだろう。もしそうなれば金髪の彼女が言っていた通り間違いなく死人が出る。
結界の大元はまだ発見できておらず、今ここで魔法や魔術を行使すれば、
更に魔力濃度の上昇を引き起こしかねない。ここは剣で奴を断頭し、確実に仕留める必要がある。
彼は空中で帯同させていた剣に命令を出す。「回れ」
命じられた剣はゆっくりと回転数を上げていき、
すぐに剣の形が分からないほどの回転を見せる。これ以上回転数を上げて「音」を出せば下にいるユニコーンや彼女たちに気づかれてしまうため、
ユニコーンを仕留められる回転数を計算して維持する。新たにポップしたユニコーンの注意を逸らすために、
魔力糸を石ころまで伸ばしユニコーン近くの岩めがけて突進させる。岩に石ころが激突し、音が響く。
驚いたユニコーンは音の発生源に注意が向き、首の位置が後ろになったところで背後から必殺の回転刃が
いとも容易くユニコーンの首が胴から分かたれ、魔石の姿へ還っていった。三体目が出現する前に、魔法陣を破壊するべく付近に降り立つ。
魔力糸を魔法陣に接続すると、彼の魔力が凄まじい速度で吸収される感覚があった。
どうやらこの魔法陣に描かれている文字を読むと周囲の魔力を吸収する効果
魔力を閉じ込める結界の効果 吸い上げた魔力を糧にユニコーンを召喚する効果の三つが組み込んであるようだ。
円形に構成されている魔法陣は内側から難易度別に大きさを変えており、
内側と外側の命令式との間に術式同士が相互干渉しないよう、
命令式ではなく象形文字に近い形状の模様がいくつも連結されている。魔法陣を描いている材料は、魔石を液体化させた塗料のようなものだ。
高価ではあるが、大きめの魔術学校に行けば目にすることは難しくないだろう。魔法陣を作成した者は相当魔術に精通している。
壊すのは簡単だが、 もう少し見ていたくなるような気持になるほど 美しく組まれた魔法陣を塗料ごと空中に引っ剥がし、 命令式を繋ぎ合わせている象形文字を強引に変更する。すると絶妙なバランスで効果を発揮していた魔法陣は自ら自壊を始め、
バラバラに崩れていく。ユニコーンの角と魔石を素早く回収してから、
最初に発見したユニコーンの元へ地上から戻る。「お待たせ。結界は破壊した」
「わっ!急に話しかけないでよ!びっくりしたじゃない!」
「わかった。悪かった。だから静かに」
「大体貴方はさっきも急に…!」
ここで自分が大きな声でまくし立てていたことに気づくが、
ユニコーンがこちらを凝視して甲高いうめき声をあげて突進してくる。「恨むぜ嬢ちゃん!」
「ごめんなさい!」
百キロ近い速度で突進してくるユニコーンを寸でのところで回避したが、
更に追撃をしてこようと頭のおでこ付近に生えている角に、全身から魔力を集中しスパークを始める。
魔力を電撃に変換する効率は他の魔法と比べて低い。
帯電しきるには時間がかかるはずだが、さすがは四段階目の魔物。五秒とかからず帯電を完了させ、こちらに狙いを絞る。
距離が離れていないこの状況では、
電撃の速度なら一瞬でこちらまで到着してしまうだろう。ユニコーンが電撃を放つ寸前、空から鉄製の剣が無数に落下してくる。
無造作に地面に突き刺さった鉄製の剣には目もくれず、 正確に狙いをつけた一撃が彼女達に襲い掛かる。しかし、ユニコーンが放った電撃は途中で鉄製の剣に軌道を変えた。
直撃すると身構えていた彼女達は、
電撃が未だに全身を焼くことがない事実に驚きの表情を浮かべ、思わず溢す。「電撃が曲がった!?」
彼女達とユニコーンは軌道を変えた電撃に驚きを隠しきれず、
少しの間狼狽していた。知能の高い魔物は脅威だが、
予測できない事態が起きると少しの間固まることも特徴だ。先ほどのように回転刃を使えば断頭する好機だったが、彼はそれを嫌った。
右足を地面に突き刺し、剣を右中段へと構える。
今度は魔力で全身を包み込み、ユニコーンへ突進。
瞬間的に速度を上げられた体が強烈な慣性で軋みを上げるが、
鍛え上げられた肉体はそれを可能にしていた。ユニコーン以上の突進速度で一瞬のうちに剣の間合いに入る。
勝負は一瞬。
急激な彼の突進に急いで距離を取ろうと一歩下がるがもう遅い。
ユニコーンが断頭されたことに気づくよりも速く中段から
横一閃に振りぬかれた剣は音速を超え、 振り切った剣が静止したに衝撃が周囲に走り、音を置き去りにした。一瞬の出来事に周囲からの歓声はなく、あるのは恐怖と驚きだけだった。
そんな中、目をキラキラと輝かせてこちらに走り寄ってくる影が一つ。
金髪の彼女だ。
「今の一撃は何?!音が遅れて聞こえたのだけど!
あと空から降ってきた剣も貴方の作戦よね! あれは電撃が軌道を変えることを知っていたってことよね!?ねっ!」早口で状況をまくし立てる彼女に周囲も個人差はあれど、
(やるな兄ちゃん!)
(恐れいったよ!)
と歓声が上がり始める。
あまりのテンションの上下にクラクラしそうになるが、
自分が子供の用にはしゃいでいることを自覚したのか恥ずかしがって頬を少し染め、顔を反らす。「まずは私の失態を何とかしてくれてありがとう。
礼を言うわ。私の名前は──」彼女が自己紹介を始めようとすると、そこで待ったをかける人物が現れる。
「おっと嬢ちゃん、それ以上はいけねぇ」
「えっ、先生、どうしてここに」
彼女の質問に答えることはなく、
大柄だが白髪交じりの無精ひげを生やし、 腰には日本刀を二本帯同している剣士と思われる老人が待ったをかける。「俺からも例を言わせてくれ。
ボウズが嬢ちゃんを助けてくれなきゃ、俺が出ることになっていた。それに」彼の耳元に寄って小さく囁く。
「─────────」
緩みかけた空気が一瞬で緊張感に包まれる。
上がっていた歓声はピタっとやみ、彼の近くにいた金髪の彼女も冷や汗を滲ませる。その緊張を破ったのは、やはり白髪の剣士だった。
「怖いねぇ。ま、このことは老い先短い墓までもっていくからよ」
「───────────────」
とまたも口パクで彼を煽り、金髪の彼女を連れて街へそそくさと引き返すのだった。
街に戻り、宿屋に戻る。
彼がユニコーンを討伐した噂がすでに広まりつつあるようで、
情報の早い女店主に何やら褒められた気がするが、 頭の中はあの白髪の剣士でいっぱいだった。適当に風呂と食事を済ませ、水に魔力糸を接続して空中に浮かせ、変形を始める。
この作業はいい。頭の中が整理されていくのを感じる。声をかけるまで気取られない体裁き。
話している最中でもぶれない姿勢。あの時、仮に切りかかっても初撃は防がれていただろう。
明日の大会に奴が出場しているのなら、遅かれ早かれ対戦することは間違いない。
勝つことを考えると、いくつか観客の前で技術を披露する必要が出てくる。だがそこまでする必要があるのだろうか?
今回のユニコーンの討伐報酬としてある程度の額は特別報酬として
冒険者ギルドを通して受け取っている。 当初の目的である日銭稼ぎは達成していると考えてよい。ならば、明日の大会は無理に自分の技術を見せびらかす必要はないのでは…
考えが棄権する方向に傾きつつあると、扉をノックする音がする。
金髪の彼女だろうか。だが、今彼女と話すつもりはなかった。大方ユニコーン討伐後に現れた白髪の剣士の無礼を詫びるとかそんなところだろう。
だが、扉の前にいたのは金髪の彼女ではなく、店主の娘だった。「お兄ちゃん、入ってもいい?」
「どうぞ」
「お邪魔します」
ベッドに座っていると隣に座ってもいいか目線で訴えかけてくる。
手招きすると少女の表情は明るくなり、少し勢いをつけてベッドに座ってくる。「お兄ちゃんが危ない魔物を倒したってホント?」
「ああ、本当だよ」
「すごーい!ねぇねぇ、その冒険の話をもっと聞かせて?」
冒険。冒険か、懐かしい響きだ。
幼い頃、自分も英雄を夢見て冒険と評した探検をよくしたものだ。すると彼の顔を覗き込んだ少女がふふっと笑った。
「お兄ちゃん、やっと笑ったね!すごいことをしたのに、
帰ってきてからずっと怖い顔していたから」「ごめんな。ありがとう」
心配そうな顔をする少女の頭を軽く撫でる。
「お兄ちゃん、くすぐったいよ」
まだ幼い子にまで心配をかけて、自分もまだまだ精神的に幼いことを自覚する。
それから女店主に怒られるまで、今日あったことをわかりやすく少女に話すのだった。
別れ際に、少女から「明日の大会、絶対見に行くから!頑張ってね!」
「かっこいいところを見せられるように頑張るよ」
「本当に皆さん、王国のために尽力して下さり、ありがとうございました」最後の戦いから数日後、傷が癒えた頃に女王陛下から感謝の言葉が述べられた。王国の水問題はカノンの尽力により普及工事が進んでおり、こちらも飢える寸前で解決へ向かっているようだ。「ベンジー騎士団長亡き後、現在は空席のままですが、ハクロウ副団長を騎士団長に昇格し、そしてレルゲン、貴方を副団長に任命致します。よろしいですね?」二人が同時に答える。「「謹んで拝命致します」」ナイトの討伐と、王国を狙った数々の暗躍が終了した事を祝して祝勝会が開かれた。「しっかし、俺がボウズ直々の上官とはねぇ…功績を考えたら普通逆じゃねぇ?」「私専属の騎士ってだけで、今まで普通の騎士と同じ階級なんだから妥当でしょ」「いやぁ、俺片腕無くなっているしよ…」「それなんだがハクロウ、無くなった左腕について話があるから後で」「ん?ここじゃダメなのか?」「まあな」「まぁいいか、んじゃ嬢ちゃん達をあまり待たせるなよ」「ああ」短い挨拶だったが、一時は死にかけていたハクロウも晴れやかな表情をしている。貴族に挨拶をして回っているマリーを見つけ、半ば強引に話しかける。「マリー、ちょっといいか?」周りの貴族達に別れを告げて、マリーがレルゲンの前に来る。「どうしたの?」「俺と一曲、踊ってくれるか?」その直球な物言いにマリーは少し驚いた表情をしたが、すぐにレルゲンを見つめ返し、返答する。「喜んで」簡単な踊りではあったが、マリーは笑顔は眩しく、また幸せそうな顔をしている。そこはレルゲンとマリーだけの空間、もちろん他の貴族達も一緒に踊ってはいたが、周りも気を遣って少し距離を空けてくれている。(マリーと踊れて良かった)(私も、公の場で貴方と踊れたのは本当に嬉しいわ。セレス姉様の事もあるし…)(今は周りの目は気にせずに一緒に楽しもう)(そうね)二人だけにしか聞こえない、踊りの中での魔力糸での思念会話は、心の距離の近さを象徴していた。マリーとの踊りが終わってから、セレスティアの姿が見えない。気になったレルゲンは少し辺りを見回して彼女を探すが、どこにも姿は見当たらない。女王にも直接聞いてもみたが、分からないと返答された。思い当たる所は後一つ。セレスティアと初めて会った中庭。初めて念動魔術の物質分離が成功し、
得意気に笑うレルゲンを見て更に思考が乱れていく。ナイトは一度落ち着くために深呼吸をするが、この間にも魔力障壁が加速度的に速く、そして鋭くなっていくマリーが魔力障壁をどんどん破壊していく。加速しきったマリーは今や分身して見える程だ。こうなってしまってはレルゲンといえど加勢しようとすると逆に邪魔になる。「やあぁぁぁぁ!!!!」剣が加速する度にマリーの気合いも上がっていく。ナイトが保険のために用意した魔力障壁がもうじき全て破壊されるタイミングで全身から真紅の魔力が噴き上がり「いい気になるなよ!」口調が荒っぽくなり、衝撃派ではなく純粋な魔力衝突によりマリーが後方に吹き飛ばされる。壁に勢いよく激突し、少しの亀裂が入るがマリーの意識はまだ失われていなかった。ようやく回りを俊敏に動いていたマリーを止めることに成功し、ナイトに余裕が戻る。「なまじ強いと大変ですね、おや?それにしても今のをもろに浴びてその程度ですか。レルゲン君、ではありませんね」一拍おき、ピシッと額に血管が浮き出る。「貴女…今、念動魔術を使いましたね?」痛みを堪えながらも笑って見せるマリー。「死になさい」最後の一撃を入れようとするナイトにセレスティアがどの上位魔術にも属さない、しかし威力は上位魔術にも引けを取らない詠唱破棄の独自の魔術を発動させる。「させません、マルチ・フロストジャベリン」無数の氷でできた槍を空中からナイトに向けて放つ。「そんなところにいたのですか。貴女までも…と思いましたが、これはどうやらレルゲン君ですね」静かにレルゲンがセレスティアを地上に下ろし、マリーの治療のためにセレスティアが駆け出す。「回復なんてさせませんよ」念動魔術で強引に止めるが、それでも何とか前に進もうとするセレスティア。しかし身体を完全に固定されて進めない。「ここからでは射程が遠くて回復魔術を使っても意味がありませんよ。大人しくそこで横たわる第三王女を見ていなさい」ナイトがセレスティアからレルゲンに向き直る。「ではレルゲン君、ついに一騎打ちです。私の懐に入れれば君の勝ち、こられなければ私の勝ちです」「それはどうかな、まだ気が早いんじゃないか?」「何を言っているのです?もう彼女達の加勢は不可能でしょう」セレスティアからマリーへ伸びる、一本の魔力糸。否、逆だ。“マリーが伸ばした”魔
「素晴らしい!皆さん本当に素晴らしい!誰も欠けることなく私の最高傑作を打ち倒すとは。特にユゥに入れた最後の一撃!私は感動しましたよご老人!流石は年の功ですね。ですので」パチンと指を鳴らし、レルゲンが帯同させていた鉄剣が螺旋状となり一瞬で高速回転する。「は?」何も命令を出していないはずのレルゲンの鉄剣が螺旋を描き、ハクロウの左肩に命中。勢い収まることなくその後ろにある壁をも貫き、見えなくなる。「くそ…しくったか…」ハクロウの左腕が肩口から螺旋剣に抉り飛ばされ、酷く出血する。「なんで…くそ、ハクロウ!」「こっちを見てんじゃねぇレルゲン!俺なら大丈夫だからよ…そっちはあいつに集中しろい」即座に帯同している残り四本の鉄剣を外へ飛ばす。残る武装は黒龍の剣と白銀の細剣のみ。肩で大きく息をするハクロウ。出血量はセレスティアが負わされた時以上、間違いなく致命傷だ。慣れた魔力糸捌きでハクロウの応急処置をし、止血する。注意はナイトに向けたまま、感覚のみで手術を行う。出血量が少なくなったところですかさずハクロウが回復薬を飲み、完全に止血が完了する。肩で息をしていたハクロウの呼吸が落ち着き、安堵する。その様子を見たナイトが一言。「手術の速度と精度も上がっていますね。実に素晴らしい成長だ」それを聞いたレルゲンは魔力を全て解放し、もはや黒と形容してもいい程の赤い色の魔力が全身から迸る。我を忘れ、今にもナイトへ突っ込んでいきそうなレルゲンを止めたのは、マリーとセレスティアだった。ただそっと二人が両手を握り、優しく魔力をレルゲンに流す。全身から迸る赤い魔力がフッと消え、我に返る。「ありがとう、二人共」マリーとセレスが頷き、構えを取る。セレスが高速詠唱でバフを二人にかけている最中、時間を潰すかのようにナイトが語り始める。「シュットくんの魔力はどんどん濃さが増していますね。色を見れば明らかですが、魔力総量だけ見れば既に私を超えているでしょう」「レルゲンだけしか見えてないって言いたいのかしら?」マリーが挑発するようにナイトを煽る。「いえいえ、そんなことはありませんよ?マリー・トレスティア。貴女方には正直期待していませんでしたが、シュット君を献身的に支える姿には涙が出るほどです」煽ったつもりが煽られたマリーは顔をしかめるが、ナイトの余裕を崩すには
(やはり魔力糸なしの念動魔術で操作していたか)「どういうこと?」マリーがレルゲンに説明を求める。「簡単にいうと、こいつらを動かしているのはナイトの念動魔術だ。だから最初から見やすい位置に陣取って“操作していた”んだ。ナイトが操っているから念動魔術も使える」レルゲン以外の三人が驚きの声を上げる。今までのこの攻防を全て一人で演出していた。それこそまさに旅の行商人が連れ歩く人形使いのようではないか。ここまで並列に思考を分けて、狙いを絞り、作戦を共有させる。念動魔術の極地とも言える技の結集にレルゲンは素直に驚きと共に、上の世界を見た。「仕組みを理解したところで、今のレルゲン君には操作権は奪えませんよ」「そうかもな」最初はマリーとアイとの相性が悪いことから前衛を変える選択をしたが、アイの影移動とユゥの回復、どちらを先に叩くか──間違いなくアイの影移動の方が厄介だ。となればレルゲンが自らアイと一対一の戦いをしても良いが、それだと次のナイトと戦う事を考えると魔力が枯渇しかねない。寧ろ次を考えるなら、レルゲンが回復魔術を使うユゥを発動させないように釘付けにし、マリーとハクロウ、セレスティアにアイを討ち取ってもらった方がいい。アイとユゥ、どちらかが欠ければ後は消化試合のはずだ。「俺がヒーラーを抑える。みんなは影移動の方を叩いてくれ」「任せて」「あいよ」短いやり取りだが、即座にマリーとハクロウがアイに切りかかっていく。マリーが連続剣の加護を発動させて、ハクロウがそれのサポート。三人で戦っていた時はこんな戦法を取ることが多いのかなと考えたが、目の前のユゥに集中して回復の隙を与えないように立ち回る。マリーが連続剣の加護が発動してから速度が上昇し切るまではハクロウと一緒に前衛をこなすが、加護の速度が乗り切った後はマリーのみで前衛を任されるのが一つの勝ちパターンだ。次第に速度が上がっていくが、ここでアイが速度鈍化のデバフスキル「ダウン・ザ・ピッチ」をかける。またガクンと一瞬速度が落ちるが、セレスティアがそれを即座にカバーする。「ライト・スピード」下がった分即座に速度バフがかかり、マリーの口角も上がる。更に上がある、もっと先へ行ける。そう感じてからの攻撃速度はマリーを能力以上の速さへと進化させる。堪らずアイが影移動で離脱しようとするが、これをセ
建物の入り口を潜ると自動で閉まっていく。一度入れば最後、どちらかが全滅するまでこの扉は決して開かないだろう。もう緊張も迷いもない。皆がただ勝利を信じてここへ立つ。中へ入ると軍服を着た少女が二人。奥にはナイトも見える。軍服の少女達とナイトを一度に相手取るように見えたがナイトが下がり、玉座とも取れる椅子に腰掛ける。「アンタは高みの見物か」レルゲンがナイトを煽ると、ナイトがにやっと口角を上げて答える。「その娘達は私の“最高傑作”です。私をここまで待たせたのですから、じっくり味わいたいではありませんか。それと油断していると幾らシュット君でも、死にますよ?」「俺の「挨拶」に耐えたんだ。そんなつもりはないさ」帯同させる剣の中には、ドライドが丹精込めて鍛え上げた剣もある。刀身は白銀で細く、細剣に近い形状を取る。鍔部分はアシュラ・ハガマの増幅鉱石があしらわれており、他にも王国から直接貸与された名剣とも呼べる切れ味を誇る鉄剣が五本。黒龍の剣も入れれば計七本の剣を扱うこととなる。マリーとセレスティアの装備は変わらず、ハクロウのみ魔物討伐の時から日本刀のような形状の刀を二本、始めから抜刀している。レルゲン達に対する軍服の二人組は、片方が短剣を両手に一本ずつ持ち、もう片方は片手直剣を持っている。レルゲンの挨拶の時は両者共何も持っていなかったが、最初から武器を手にしている事から、挨拶時は始めから「どちらも本気ではなかった」のだ。レルゲンの額から汗が流れ、地面へと落ちる。「いくぞ!!」両陣営共駆け出す。前衛はマリーとハクロウ、レルゲンは遊撃として一歩下がり、セレスティアは小声で攻撃魔術の詠唱を始める。最初は様子見とばかりにお互い魔術の追加攻撃はせずに前衛同士の鍔迫り合いが繰り広げられる。レルゲンも鉄剣を一本ずつ相手の横腹に射出するが、あっさりと短剣使いは弾き、片手直剣の方は素手で弾く。射出速度と剣の切れ味から考えても無傷で防げるとは考えづらい一撃だが、ここでレルゲンが挨拶をした時に放った赤い光線を両者とも素手で受け止めていたことと重なる。(やはり身体の構造的に何かあるな)ちらっとナイトの方を見るが依然として動かず、表情も変えず、戦いを楽しむように観戦している。レルゲン剣を弾いた直後に両者とも鍔迫り合いを止め、剣戟が室内に響く。マリーとハクロ
五段階目の討伐で自信をつけたマリー達は少しの休憩の後、五段階目一体、六段階目も一体討伐して帰還して来たのだった。六段階目は魔力量と大きさ、一撃の破壊力は大きいがセレスティアは標的にならない程前衛二人の働き凄まじくアシュラ・ハガマに似た形状の魔物を討ち取ったのだった。王国に帰還してからというもの、レルゲンにこの事を報告に行った三人は気力、魔力が尽きかける限界近くまで消耗はしていたがそれでもやり遂げたのを見て、レルゲンはただ一言「お疲れ様」と労った。それから発注した武器が完成するまでは、レルゲンは三人の連携を崩さないように立ち回り援護に徹することが多く、念動魔術による牽制くらいしか必要としない力量まで実力が底上げされていた。この成長ぶりにはマリー達自身も驚いており、レルゲンも背中を預けられると安心していた。武器が出来たとドライドから連絡が入り、早速届いた剣を試し斬りするべく、鍛冶屋の裏に周る。「この前の黒龍の剣とは違って、どっちかっていうとマリー嬢ちゃんの魔剣に近いな。要望通り作りはしたが、どんな目的があってそんな仕様にしたんだ?」掻い摘んでドライドに話す。「それをしたところでなぜそうなるんだ?」と返って来たので、説明が難しいと言って逃げる。試し斬りだけして切れ味を確かめ、要望通りの品質を確認してドライドに感謝を伝えた後に持ち帰るのだった。実は新しい武器はレルゲンが幼少期に体験したある出来事が元になっている。まだ魔法すら使ったことのない年齢のレルゲンが、火炎魔法を発現させたと大騒ぎになった事があった。結果的には魔法の痕跡は無く、原因が分からないまま終わったが、それを見た両親がナイトを家庭教師としてつけて魔術を教えることとなるのだが、レルゲンは今でも鮮明に覚えている。“この世は魔で満ちている”魔術適正が無くても、魔法くらいなら誰でも出来るのだという確信がレルゲンを形作った。その手段を魔術で応用することによって、真の魔術として昇華させる。まさに十八番ともいえるレルゲン独自の技の基礎だ。準備は整った。敵の本陣とも言える座標に徒歩で向かう。相変わらず魔力揮発剤が常時巻かれており、魔物が寄り付かない道がこの深い森の中に出来ている。森を抜け、木々が不自然に生えていない場所に出ると陽の光が入り込み、暖かな日差しが差し込んでくる。芝の上
後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。お互いに戦闘を瞬時に中断し、何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか?だがそれならもう対策はある)彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、魔力糸無しで念動魔法を発動させる。だが、彼の思惑通りにはならなかった。確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。しかし、魔術の「継続」が出
大会もいよいよ最終戦木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら「なるほど、相手は君か」「ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。私が有利になるルールに何度も変えさせて」「いいさ、結果は変わらないからな」「ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね」その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。気分が高揚していた。「特別試合、始めてください!」最初に動いたのは彼女の方だった。木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、
第一試合から順調に試合は進んでいき、彼は順調に駒を進め、決勝まで来たのだが相手は先日のユニコーン騒ぎでひと悶着あった白髪の剣士だ。「これよりBグループの決勝戦を開始します!えー、一番と八番の決勝戦ですが、なんとお互いに真剣を使っての試合を望んでいるようです!」決勝戦ともあればある程度のわがままは通るはず。どうやらお互いに考えていることは同じようだった。「ただいま入った情報ですが、事前にお互いが大会運営に直談判し、運営はこれを許可したそうです!さぁ盛り上がってまいりました!」観客から歓声が上がる。「では改めまして、Bグループ決勝戦!始めてください!」お互いに目線を合わせ
大会当日大会のルールは魔法、魔術あり、真剣あり。寸止めは必要なく戦闘続行不可能と審判が判断すれば試合終了。実質初撃で致命的な一撃を負わせることができれば殺しもありの、ほぼルール無用の地下闘技場にありがちな過激な大会規定だったはずだ。だが、急遽真剣は木剣となり、魔法、魔術も呪い系や再起不能になるレベルの攻撃魔法、魔術は禁止の実質学生の大会でもやるのかというレベルのルールでの開催となった。ここで魔法と魔術の違いについて簡単に説明しよう。魔法とは、単純な命令や魔力変換の末に行使が可能なもので、魔術とは、例えば魔法を複数組み込み複雑な術式を構築することを指すが、この魔法と魔術と